納棺師の仕事とは
死は、人間なら誰しも訪れる厳粛なものです。それだけに、古来よりいかに故人を穏やかに送り出すのかが、考え抜かれてきました。それは現在の葬儀として結実しており、そこには多くの工夫と配慮が重ねられているのです。
そんな葬儀に関わる職業というのは、いくつかありますが、中でも故人を棺に納めるために、必要な処置を行う人のことを納棺師といいます。この納棺師は、それを主題とした映画でにわかに脚光を集め、その名前はよく知られることになりました。しかし、実際の納棺師の仕事というものは、まだ広く認知されているわけではありません。
納棺師は亡くなられた方に対して、遺族や参列者が安心して対面できるよう、遺体の状態を管理しつつ、見栄えを整えていくのが主な仕事になります。
とくに夏場であれば腐敗が進みやすいですので、ドライアイスなどで、体の内側から冷やしていく必要があります。また、表情が優れない場合には、含み綿によって柔らかく整えたり、葬儀にふさわしい衣装に着替えさせたりします。そして、肉体における生命活動が停止しますと、皮下組織の崩壊が始まってしまいますので、ヒゲや爪が飛び出していきます。これらを手入れすることも、納棺師の仕事のひとつです。
さらに納棺の前に、湯灌というものを行うことがあります。これは、遺体を入浴させて洗い清めることで、看護師が済ませてしまうこともありますが、とくに遺族が希望される場合は、納棺師が担当することになります。このように、納棺師の仕事というのは、意外にも力仕事となることが多いものです。そのため、通常は複数人でチームを組み、負担を減らしつつも、ベテランの仕事を新人が見て覚えるなどして、後進の育成も行っているのです。
そして、最近では、エンバーミングという技法にも注目が集まっています。これは、遺体を消毒したり保存処理したりすることに留まらず、損傷した遺体を修復する作業も含まれています。事故死や変死、自死した遺体などは、そのままでは痛みが激しく、遺族のショックも計り知れません。それらを緩和するためにも、エンバーミングの技法が求められるようになってきています。事実、東日本大震災のときには身元不明の遺体を、家族に確認してもらうために、エンバーミングが広く使われるようになりました。
納棺師の仕事は、故人を穏やかに送るだけではなく、遺族の悲しみを和らげるものでもあります。納棺師のことをよく知るとことは、充実した生にも繋がっていくのです。